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僕はただただ目に焼き付けていた。
竜の魔法による暴虐。獣の四肢による圧倒的な破壊。それらは相手を倒すために全力で振るわれる。モンスター同士の頂上決戦。大戦争。僕は我知らず自分の服の胸あたりを鷲掴みにしていた。
苦しい。焦がれるような感覚がある。足りない。もっと、もっと見たい。もっと近くで見てみたい。
その迫力を、余すところなく味わいたい。
「……あ」
それでも、やがて戦いは終わる。
竜の放った業火の熱線は獣を薙ぎ払い、勝負は決着。
今度こそ割れんばかりの歓声に包まれ、竜は勝ちどきの咆哮。
竜のほうのテイマーは拳を高く掲げ、獣のほうのテイマーはがくりと膝をついていた。
僕はド迫力の決戦の余韻に浸り、高鳴る胸の鼓動を抑えつけるように息を吐く。
勝負が終わっても、授賞式が終わっても、なぜか少し落ち込んでいる父親に連れられて家に帰っても、その興奮は冷めることがなかった。
これが、最初。
大昔の記憶だ。
一皮むけるとか、転機とか、契機とか。人生における重要なターニングポイントのことをそう言ったりするんだろうけど、僕にとってはまさしくこの日がそうだった。
モンスターの格好よさ。迫力。勇壮さ。そういうものに心を奪われて。
ここに、来よう。
もう一度、次は観客としてじゃなく。
幼い僕は、熱に浮かされた頭でそんなことを想った。
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