飛べない鳥、漂う海月

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 夜の明かりは直視出来ないほど目に痛い。 私は眩しすぎる都市の中心部から、視線を僅かに右、広がる海へと逸らした。 夜の海は宵闇に溶け、姿を消す。 ただ打ち寄せる波と潮騒だけが、そこに存在しているということを主張していた。 光の浮かばないその空間を見つめていると、視界が少しずつ明暗を認識しなくなり、やがてその中に呑み込まれてしまうのではないかという錯覚に襲われ、身震いする。 無意識に服の裾を握りしめていた。  ただ、眩しいよりはずっとましだとも思う。あの光輝く街並みよりは、ずっと。    ぼんやりとそんなことを考えてから煙草に火をつける。 ずいぶん冷え込んできた。ゴホゴホと咳が出る。 私は生まれつき重度の喘息持ちだ。 そのせいで激しい運動が出来ず、学生の頃は体育の授業が見学ばかりのつまらない授業だった。 そんなどうでもいいことを不意に思い出す。  そんな体でも、一度吸い始めたらやめられなくなってしまった。 海沿いのマンション、五階のベランダ、その枠に肘をついて深く息を吐く。 燻らせた紫煙は視界の左から右へと流れ霧散し、形を失った。 彼らは世界と一つになったのだ。 私にはそれがとても羨ましくて、怨めしくて、たまらずまた煙草に口付ける。 言葉にならないこの声を煙草の煙に変えて消化したつもりになっているのかもしれない。 現実逃避と言われればその通りではある。 もう取り戻せない時間を憂いて、孤独であることを認めなければならないこの現実を前に、私は何をどうすれば解放されるのだろう。  あの海ならば、どうだ。 私をそっと包み込んで、人知れずこの世界の一部としてくれるのだろうか。 だって、母なる海というではないか。 その母性で私を解放してはくれないだろうか。 少し考えても、結論は空然り、覆ることはなかった。  この日も、いつもと変わらなかった。この先も、きっと何も変わらないだろう。
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