飛べない鳥、漂う海月

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「風邪を引くよ」  不意に、後ろから抱きしめられる。柔らかくて優しい暖かさ。 海の中に沈めば、こんな感じなのだろうか。 その充足感に、つい全てを委ねてしまいそうになる。 「……別に、平気よ」  そんな自分をどうにか押し殺して、私は男にそう答える。 すると男は嬉しそうに笑って、わざとらしく私の耳元で囁いた。 「それで、今日は何を考えていたんだい?」  声が鼓膜を震動させると、ゾクゾクと背筋を何かが這うような、そんな感覚が私を襲う。 酷く不愉快だった。 まるで動物性の獲物を補食する海月だ。 その触手で私に絡み付いて毒性の針で私の心を惑わせる。 飛べない鳥が海に沈み、、今まさに海月の餌食となろうとしているというわけだ。 海月が鳥を食べるかどうかは知らないけれど。 「別に。いつもと同じことよ」 「……そう」
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