飛べない鳥、漂う海月

4/5
前へ
/5ページ
次へ
 煙を吸い込んだ。 煙草の先が少しの間赤く光る。 そして深く、溜息を混ぜて煙を吐きだすと、さっきと同じように左から右へ。  それと同時に彼の、私を抱く腕に力が篭る。 この男のこういうところが嫌いだ。 腹が立つ。 他人の苦しみを共有して、そして一緒に悩み苦しもうとする。 或いはそのフリだけなのかもしれないが。 いずれにせよそれはこの男自身が望んで、あるいは好んでそうしているだけであって、私にはそんなことどうでもいい、一切関係ない。 偽善も慈善も望まれていないのであれば不要なのだ。 それをこの男は理解していて、私に施そうとしている。 ……いや、そうやって優しいフリをして、本当は自分が孤独に堪えられないだけなのかもしれない。 寒さに震え、温もりを求めて。 針が更に深く私の体に食い込んでくる。 「……ほんと、ムカつく」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加