第1章

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薄暗い部屋の中、俺は天井を見つめていた。 いつから天井を見ていたのか自分でもよくわからない。 寝ている時と起きている時の境界があやふやだ。 俺がこの部屋に引きこもってから数ヶ月がたった。 お袋は最初こそ心配していたようだが最近はそんな素振りはなく、むしろ俺を険にし始めたように感じる。 まあ、天塩にかけて育てた一人息子が急に引きこもりになったのだ。 当然といえば当然だ。 会話もろくにしないし、仕事も忙しいのだろう。 俺も別に気にしない。もうどうでもいいのだ。 だが、だがしかしだ。 ひとつだけ譲れないものがあった。 パンだ。 俺の部屋の奥に置いてある仏壇。 そこに備えるパンは何としても確保しなければならない。 少し前までは毎日、まあ1日くらい空く日はあったが、ほぼ毎日新しいパンを、頼めばお袋が買ってきてくれていた。 だが、最後に買ってき貰ったのはもう四日前である。 俺の飯は毎日部屋の扉の前に置いてある。これは継続している。 だがパンはない。 ふと仏壇の方を見る。 「……なんてこった。」 俺は目を見張った。 カビが生えていたのだ。
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