第1章

3/11
前へ
/160ページ
次へ
俺はカビの生えたパンをあいこにに供えてしまったのか。 このままじゃダメだ。 早急に新しいパンを供えねば。 しかしお袋は仕事にいってしまった。 家には誰もいない。 「外に、買いに行くか。」 引きこもりの俺の口からあっさりそんな言葉がでた。 ジャージを着込み、仏壇の前で正座し、行ってきます。 とあいさつを済ませ部屋のドアを開けた。 階段を降り、居間へ。 そして玄関へたどり着き扉を、あけた。 数ヶ月の引きこもり生活は人知れずあっけなく終わった。 まあパンを買ったらまた引きこもり再開なのだが。 久々の外出である。 少し前まで部屋から微かに聞こえていた蝉の声もすっかり落ち着いていた。 もう夏も終わるのか。 ひきこもり始めた頃は確か梅雨の季節だったかな。 何となくそんなことを考えながら、人気の少ない道をとぼとぼ歩く。 もうすぐパン屋に着こうかという所で ふと、視界の端に小さな黒いものが入った。 「猫……か。」 車道を挟んだ向かいの歩道に猫がいた。 小さな黒い猫だ。 まだ子猫なのだろう。 「ふ、可愛いな……」 自然に顔が綻んだ気がした。久しぶりの感覚だ。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加