36.豪雨の思い…

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「いったい…何面にしたのよ。 調整する為とはいえ、馬鹿じゃないの?」 あたしの呆れた声に、閃は頬を掻きながら答えてくれた。 その数、1008面…どれだけ細かい事が好きなのだろう。 眺めてみても、その面が均一に、規則正しくカットされているのが判るだけに、その集中力も判るという物だ。 「世界樹の精霊に、オリハルコンの原石を貰ったから、いつもの森で頑張って捏ねてな。 赤ドラ…友のレッドドラゴンのブレスと一緒に、焼き固めた」 言われて気付いたが、確かにリングは白く澄んだ色をしており、普通の金属でないのが判る。 オリハルコンといえば希少金属で、爪の先ほどでも恐ろしい値段が付く物。 それが指輪のサイズ…一体どれだけ使ったのだろうか。 「それから、街でドルーガさんを訪ねて、ビロードと綿と黒檀の板を貰ってな… 一応は手作り。 SENブランドは俺のトレードマークみたいな物だから、プレートも付けた」 箱を眺めるが、その箱にも一切の手抜きは無い。 ビロードも元々丁寧な仕事の物を、選別して更にカットしたのだろう。 毛並みに一切のムラが無い。 箱の端も丁寧にヤスリ掛けしてあり、引っ掛かりも一切無く、ツルツルに磨き上げられている。 どれだけの苦労と、どれだけの労力と、どれだけの集中力で作られた物かが良く判る。 判ってしまうだけに、あたしの感情が翻弄されてしまう。 「あ…た…馬鹿………の…あたしは孤児なのよ!」 あたしの叫びに、酒場の皆が視線をこちらに向けてきた。 「だから?」 閃の答えはそれだけだった。 あたしが言った言葉に対する感想は、その一言だけ。 「あんた…あたしが…捨て子と知って、変わらずに居られるの!?」 あたしの叫びに閃は一切の隙を見せず、普段通りの口調で口を開いていた。
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