豪雨の中で

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「そういえば、この店は、何でこんな酷い天気にしか開店しないんですか」 「こんな酷い天気の日じゃないと、出せないからだよ」 「…答えになってない気がするんですが…」  変な人だ。含み笑いを浮かべて、塩野目さんは本の山の中へと消えた。  私はコップに残っていた麦茶を一気に飲み干し、再び文字の海へと意識を傾けた。  どれほどの時間が経っただろうか。ふと、本から顔を上げると、それを見越したように塩野目さんが話しかけてきた。 「もうそろそろ帰る時間じゃないかな」 「もうそんな時間なんですか?」  本の山に隠れてしまっているのか、それとも元々窓がないのか、外がどのような状態になっているのか把握できない。 「うん、もう19時半だ。雨ももう止んでいるから、店仕舞いしないとね」 「それはすみません。案外長居してしまったみたいで」 「いいんだよ。いつものことだから」  いつものこと、何故だかその言葉に首をかしげてしまう。  普通に、この店に私の様な客がきて、雨が止むまで居座る。ただそれだけの意味を持つ言葉であるのに、漠然とした疑問を感じてしまう。 「あの、他にどんな人がここに来るんですか」 「…君みたいな人達だよ」  やはり何かを隠しているような笑みを塩野目さんは浮かべた。
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