0人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういえば、この店は、何でこんな酷い天気にしか開店しないんですか」
「こんな酷い天気の日じゃないと、出せないからだよ」
「…答えになってない気がするんですが…」
変な人だ。含み笑いを浮かべて、塩野目さんは本の山の中へと消えた。
私はコップに残っていた麦茶を一気に飲み干し、再び文字の海へと意識を傾けた。
どれほどの時間が経っただろうか。ふと、本から顔を上げると、それを見越したように塩野目さんが話しかけてきた。
「もうそろそろ帰る時間じゃないかな」
「もうそんな時間なんですか?」
本の山に隠れてしまっているのか、それとも元々窓がないのか、外がどのような状態になっているのか把握できない。
「うん、もう19時半だ。雨ももう止んでいるから、店仕舞いしないとね」
「それはすみません。案外長居してしまったみたいで」
「いいんだよ。いつものことだから」
いつものこと、何故だかその言葉に首をかしげてしまう。
普通に、この店に私の様な客がきて、雨が止むまで居座る。ただそれだけの意味を持つ言葉であるのに、漠然とした疑問を感じてしまう。
「あの、他にどんな人がここに来るんですか」
「…君みたいな人達だよ」
やはり何かを隠しているような笑みを塩野目さんは浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!