豪雨の中で

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「さぁ、いいところだろうけど本を読むのは止めて、帰る準備をしよう。明日も学校だろうし、早く帰らないと親御さんも心配するよ」  そう言われ、ハッとする。過保護な親の事だ。友人たちや学校、周辺施設に片っ端から電話をしているに違いない。早く帰らなければ面倒なことになる。 「本、買って帰っていいですか」  いいところで終わっているのだ。一度読んだとはいえ、続きが気になる。お金ならば多少はある。  本屋なのだから、本を買われるのが本来の役目だというのに、塩野目さんは、ギョッと目を見開いて驚いていた。 「駄目ですか?」 「いや、いやいや。全然大丈夫! むしろ買ってって! いや、間違えた。買ってもらって大丈夫だよ!」  はた目から見ても、大手を振って町に繰り出していきそうな笑顔だ。 「あ、そうだそうだ。忘れないうちに渡しとかないと。次、いつ君が来るかわからないし」  塩野目さんがズボンのポケットから取り出したのは、藍色の布で包まれた何か。  布をめくると、赤とんぼが描かれた球簪だった。 「忘れ物だよ。    茜ちゃん」  頭が、真っ白になるようだった。
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