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私は、以前にこの本屋に来たことは無く、これが初めてだ。それに、男子のような髪をした私に、こんな簪をさせるはずもなく、そもそも以前に来たことないのだから、簪などという忘れ物をしたこともない。忘れものだと渡された簪も、記憶にない。
「塩野目さん、違います。この簪は、」
「『自分のものじゃない』でしょ。うん、わかってる。でもこれは君のだよ。茜ちゃん」
「なんで、私の、名前」
声が震える。どっと冷や汗が出て、気分が悪い。
名前を知られていることに対する衝撃も、恐怖も、記憶にない簪を渡された疑問も、全てがごちゃまぜになって、脳が思考を停止する。
彼はいったい誰なんだ。
「…まだ、もう少し時間はあるかい。よかったら老人の昔話に付き合ってくれないか」
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