承 あなたについて

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 私は再び歩き出した中島さんのあとをつける。少し歩くと、またもやぎこちないタイミングで先ほどの質問に答える。 「俺、恥ずかしながらこの歳でもフリーターなんですよ。いや、フリーターだったんですよ。ちょっとトラブルがあって、折角雇ってもらった職場を退職しました。」 いきなり話し出すものだから、私は咄嗟にメモ帳を取り出した。決して話の内容を途中で折ることないようメモに専念する。一度自分の過去を話始めてくれると、その人について深く掘り下げることのできる場合が多い。 「どうしていいのか分からず街中フラついてたら田中さんのボロくさい本屋を見つけまして、雰囲気に惹かれ入ってみたらこんなことになってたんですよね。今も俺、よくこの状況を実感できてないです。」 私は中島さんが言い終わると数秒もたたずにメモ書きを終えた。本題に入る前に、気になることがあった。 「中島さんって、今おいくつなんですか?」 中島さんは恥ずかしそうに、しかし隠さずに年齢を暴露する。想像していたものと少し違った答えが返ってきた。 「今年で二十五です。就活に失敗しまして。」 奇遇だった。年齢は口に出して言っていないが、私も今年で二十五だ。つまりは中島さんと同い年である。そう考えるとさん付けをして呼んでいたのが恥ずかしく思えてきた。 「そうなん、だあ。もっと上の歳かと思ってたよ。」 敬語を避けるようにした。この際中島さんと呼ぶのもやめよう。芝居をしているようで馬鹿馬鹿しい。 「じゃあこれからは中島、でいいよね。」 急変した私に驚いているようだったが、すぐにその方が都合がいいと思ったのだろうか、向こうも態度を変えて接してきた。 「じゃあそうしようか。俺も田中って呼ぶよ。これからついてこられるなら尚更、お互いに距離があるとやりにくいからな。」 私はその言葉をメモにとった。中島は今度は呆れるようにその行動を無視し、私を置いていくようにして歩いていった。
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