第二十六話:二つの叫び

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結果として、フランドロス国王が最後に国にもたらしたのは破壊だった。 多くの建物だけでなく、民の命さえも壊し、言葉も無いままに去っていったのだ。 悔しさから、口から血が滲むほどに歯噛みするジャスは周囲に浮かぶ剣を消し、エンドラス達のいた方向を睨み付けた。 「…………」 自身が重症であるのも気に留めず、その足を前に進めようとした。その時 「いたーーーーーー!!」 背後から場違いに気の抜けた声がジャスの足を止めた。 「帰りが遅いし凄い戦闘音も聞こえてくるし心配してきてみたらやっぱりほら! なんで、しかもメチャクチャ傷だらけってか致命傷じゃないですかこれ! 本当この際だから言いますけどジャスさん頭おかしいですって……って、え!? 魔王軍!?」 叫びながら泣きながら怒りながら驚く突然現れたシスター姿の女にサクラもドラゴニアも呆気に取られてしまう。 一瞬、空気の読めないバカが現れたのかと思ったがシスター姿の女の手元から微かに見える白い光が数秒の後にジャスの傷を治すのが見えた。 その様子から、彼女もまた、普通の人間ではない。と、すぐに印象が変わる。 「……まずいですね。ここで勇者に回復されてしまうとは……シエラの意識も戻りませんし、私もドラゴニアもこれ以上戦える状態とは言えません」 「……だとしても、私は足掻くぜ、最後までな」 二人は覚悟を決めた。が、傷を癒し、立ち上がるジャスからは殺意も敵意もなく 「……ジャスさん?」 「アンリ、あれを治せ」 「「!?」」 シエラの方を指差してアンリと呼ばれるシスター姿の女にそう命じた。 その言葉に先に反応したのは命じられたアンリ本人だった。 「なっ!? ジャスさん正気ですか! だってあれって……」 「わかってる。……責任は持つ。説明するのもめんどさい。やれ。すぐやれ。命令だ」 「うわ……なんですかほんとこの人は……絶対権力握っちゃダメな人ですよ」 「待ってください……どういうつもりですか勇者。私達は貴方の敵の筈です。なのに……」 「言った筈だ。めんどくさいから説明しないと。それに、重症のそいつをいつまでそのままにしておくつもりだ。どけ。その方がお前たちにとってもいい筈だ」 「事情くらい話してほしいですよ本当にこの人は自己中なんだから。その内自己中で死にますよきっと。あ、なら今度から回復するときはお金取ろうかな」 強引な頼みに対しアンリはぶつくさ言いながらもシエラの傍に寄り、両手をシエラの胸に添えた。 「おい、変な服の女! 何かしたらすぐに焼き消すぞ!」 「しませんよ! ……一応、その辺のプライドはありますから」 ドラゴニアの脅しにも怯える様子もなく、アンリは命令通り治療を始めた。
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