第二話:最強勇者のお仕事体験

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「さて、これでひとまずは遠征に必要な最低限の魔物は用意できましたね」 「なあ、アイツらは何処に行ったんだ?」 俺は部屋から出ていった魔物たちの行方が気になっていた。部屋から出ていくときの勢いから、まるでもう行先を決めているかのような早さだったのだ。 で、あれば、彼らは何処に向かったのだ? 俺の寝室とかじゃなければいいのだが。 「ああ」と短く返事をし、サクラは 「野生に返りました」 などと、俺の予想のはるか上空の答えを返してきた。 「野生?」 「ええ。ですがご安心を。必要とあらば、魔王様の呼び声一つで収集は可能ですから」 そうなのか……魔物って耳が良いんだな…… 「何はともあれ、召喚お疲れさまでした。本日は夜も更けています。遠征は明日が良いかと思われます。失礼ながら最初は私もこんなにうまく召喚が出来るとは思っていませんでしたが……あなたには、やはり魔王としての素質があるのかも知れませんね」 「ねえよ、そんなもん……というか、ずっと気になってはいたんだがお前は先代の魔王が死んで、悲しいとかは思わないのか? その……俺が憎いとか」 えらく従順で、文句の一つも言わないサクラに、やはり俺は引っかかっていた。そりゃ、魔王が憎かったとか、酷い事をされたとかなら納得がいく。でも、話を聞く限り、魔王はそんなにやな奴って訳でもなさそうだし、何より魔物の中では英雄扱いときた。 それを殺してしまった俺は、こいつらから憎まれるべき存在なんじゃないのか? 「憎い」 程よい厚みのある唇から出た一言に、俺は心臓を貫かれたかのような感覚を覚えた。 が 「という感情をあなたに抱いてはおりません。元より私は魔王に使える身。恩や情ではなく、そういう存在なのです。故に、先代が死ねば、新たな魔王に使えるのが至極当然のこと」 続く言葉に俺は言葉を無くした。 「……そっか、なら良かった」 ただ、サクラってそういう子なのだな、と。 納得したものの、彼女のそのそっ気のない言葉を俺はこれから先忘れることは無いだろう。 明日は遠征だ。気分を切り替えて挑もう。
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