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「王……本題に移りましょう」
ジャスの言葉に、老人は何の相づちも打たないまま、視線のみを彼に向けた。
「ジャスよ」
静かに、けれど重い声。ジャスの眉が微かに振動したのを隣にいた少女は見逃さなかった。
「我に……指図をするな」
「……その様な大それたことをしたつもりはありませんが」
言い切る前に、その場にいた全員の視界からジャスが消えた。
否、正確にいうとジャスのいた席、その周辺のものを含めた机や椅子が塵一つ残さずに消失していたのだ。
誰の目にも、何が起きたのかを捉えることが出来ぬまま。
「口答えも許さん」
王はそれだけ、怒気のこもった声で淡々と告げる。
あまりの理不尽に、少女が抗議しようと立ち上がるが、背後に現れた者に口を塞がれ、叶わなかった。
「失礼いたしました」
その声は、ジャスのものだった。
今、何が起きたのか、その殺意の矛先が誰に向いていたのかを全く意に介さないといった様子で謝罪するジャスに少女は人ならざる者を見る目で彼を見る。
「超直感……スキルに助けられたな……まあいい。ここで戦闘などするつもりもない。今回は多目に見ようか」
「……ありがとうございます、王」
ここまでのやり取りを、他の全員は理解することさえもできないまま、ただ無言で、座って見ていたのだった。
そして、思う。
王も、十分化け物なのだ、と。
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