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足場の悪い道を行く馬車の、その揺れを感じながら到着の時を待っていた。
そんな中、しばらく誰も言葉を出さないでいたが、先にその沈黙を破ったのは意外なことに普段自分から話そうとしないニアちゃんだった。
「なあ、姫様よぉ……魔物狩りだったか? その風習で一つ聞きてぇ。何で一度無くなった風習がここに来てまた始まったんだ?」
「終わった、という表現は近いようで違う。魔物狩り自体が名ばかりで、これは我が国の娯楽の一つなのだ」
セリーゼの発言に、馬車内にいる者の視線が彼女に集う。内心に感じたことは違えど、不快感のようなものを感じたに違いない。
俺もそうだ。
娯楽の一つ? ふざけるな、人が死ぬのを楽しむなんて、それこそ人のやることじゃない。
魔物を炙り出すなんて虚言をはり、自分達の楽しみのために命を散らす。
それもおかしいが、何よりも、そんな馬鹿げたことを魔物のせいにしていることが許せない。
魔王の立場になったからか、余計にその思いは強かった。
「魔物の名を出せば、人は納得する。お前達には申し訳ないが、この世界にはその常識がある。私もお前達に会うまでそう思っていた……」
「魔物は人を食う。娯楽で人を弄び、いたぶり、殺す。感情の無い化け物……まあ、無理もありませんが」
セリーゼの絞り出した言葉に、サクラが補足する。
「実際、私達魔物は人と敵対しているわけですからね。どんな汚名をつけられようとも弁解する者は人間側にはいませんしね」
「だな。無理もねぇし、その辺の興味もねぇ」
その補足にニアちゃんが欠伸混じりに同意する。まあ、そうだろうな。敵側の、自分達に対する印象など気にするだけ無駄だろう。
当然良い印象など持たれていないだろうし、これまでの魔物は人を殺すこともあった訳で、間違いではないし。
その事実に毛が生えたようなものだ。ニアちゃんの気持ちはわからなくはない。
だが、俺は違う。
魔物と人間の和解を目指す以上、魔物の持つイメージを変えていかないといけないから、ちゃんと向き合わないといけないんだ。
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