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頭を抱えている俺の方を振り返り、サクラはただ淡々と告げた。
「魔王様、紹介します。彼女が魔王軍幹部の一人、『東のシエラ』です」
「幹部?」
俺の声は教会内に響き渡った。
「うるさいですよ魔王様……人の迷惑も考えてください」
「ん? 魔王様? サクラ、今魔王様って言った?」
シエラはサクラの返事を待つことなく俺の前まで駆け寄ってくる。幼い少女のような足取りだったが、俺を捉える彼女の瞳はそのあどけなさに反し底知れない、恐怖に近い感覚を覚えるものだった。
「これが? ってことは魔王様は死んだのかー」
「ええ……」
「ふーん……」
これは……あれだ。俺の苦手なタイプの女だ。この人のパーソナルエリアを気にせずにズカズカ来る系女子!
「なんだよ……俺人に見られるのに慣れてないからあんまりじろじろ見んなよ」
顔地近付けんな、ムズムズするから!
「てことは君が僕らの魔王を倒したんだね! 凄いじゃん! ぱっと見は地味で特に魅力もないのにさ」
「ほっとけ!」
礼に倣いこの子も魔王の死を悲しまないのね。魔族って本当にドライな奴らだ。
「それよりもシエラ。貴方は一体ここで何をしているのですか? 遠征はもう終わったと思うのですが」
「あ、そうそう! それ言おうとしたんだけどさぁ。遠征の目的地を途中で忘れちゃって、迷い込んだ先がここだったのー! で、ここの人が凄い悩んでいるみたいだったから助けてあげたの! どう、僕ってば優しいでしょ!?」
手をパタパタさせながら言うシエラだったが、サクラの北極圏のように冷め切った視線に抑え込まれてしまう。
「仕事でしょう? 何を道草食っているのですか」
「でたーサクラのおかんモード! でも結果オーライじゃん! おかげでここにもすんなり来れた訳だしいたたたたたた!」
確かにシエラの言う通りだが、如何せん納得に行かないといった表情のサクラは無言でシエラの髪を引っ張る。なんかこういう時のサクラは何だか人間味に溢れるな。
「もう、やっぱりサクラは苦手! すぐに暴力振るうし!」
「そうやって何でも自分のいいように解釈するところ、変わりませんね」
ぷくーっと頬を膨らませながらシエラは不貞腐れる。なんか癒されるな。
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