3153人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいもん! せっかくこの町の面白いところを見せてあげようと思ったのに。いこ、魔王様!」
大袈裟に手を振って言い捨てると、シエラは俺の手を引いてきた。何気に力は強く、ちらっと彼女の手を見ると、古い傷跡が多く見えた。
……この子も人間たちと戦ったりしたのかな。こんな小さい子が……。
胸が痛んだ。同時に変な感覚を感じた。何だろうな、この胸のもやもやは。
「ええ。どうぞ、ご自由に」
引っ張られるままに連れていかれる俺に、サクラは相変わらず冷めた顔で見送る。どうやら魔王であっても俺には拒否権は無いらしい。
で、何処に連れていかれるんだろうな……。
*
連れていかれた先は、小さく古びた木造建築の家だった。家の玄関からは甘い香りが漂ってくる。この匂いが砂糖だと気付くのに、意外と時間が掛かった。
中を見ると、一人の老婆がゆっくりとした手際で飴を捏ねていた。
「駄菓子屋……か?」
「せいかーい! ここはねー、シエラのお気に入りの場所なんだ。元々貧困の町だったんだけど、こういう子供たちの楽しみは残してくれてたみたい! あ、おばあちゃん飴一個頂戴!」
「はいなはいな」
「お、おいシエラ? 金はどうするんだよ! 俺は持ってないぞ?」
俺の言葉に、店のおばあちゃんが首を左右に振って「いいのいいの」と言う。
「シエラ様に受けた恩は飴の一個や二個でどうにかなるものじゃないよ。料金は気にせんでええ。好きなだけ食べるといいさね」
ほっほと、おばあちゃんは優しく笑いそれにつられてシエラも笑う。こういう所を見ると、魔物も人もそんなに違いはない気がする。だって、笑うシエラの顔は、ガキのそれと変わらないから。
最初のコメントを投稿しよう!