7人が本棚に入れています
本棚に追加
電話は妻が入院する産院からだった。
切迫早産の危険性があると言う事で、もう2ヶ月も入院していたが、突然の破水があった為に緊急の帝王切開となった。
そうして産まれて来たのは、手のひら程の小さな小さな女の子。
羊水と言う名の海の中、小さくても懸命に生きてきた。
そんな彼女を見た途端、僕の目からはぽろぽろと涙が溢れ出した。
保育器の中にいる我が子の姿を、僕はパシャリとスマホのカメラの中に収める。
あの高台で撮った最後の画像には、鮮やかな朝焼けよりも更に眩しいあの少女の笑顔。
次の画像には、たった今産まれて来た我が子の寝顔。
これでは順番があべこべだと、何だか少し可笑くなった。
「ねえ、頼んでおいたこの子の名前、もう決めてくれた?」
そう聞かれて、僕は妻である実咲の顔を見る。
やはりそうだと、改めて確信した。
あの少女の面差しは、実咲にとてもよく似ている。
「みらい……『未来』って、どうかな?」
唐突に浮かんだ名前だった。
けれど、この子には今度こそ未来ある人生を歩んで欲しい、そう切に思うから。
「未来ちゃん? いいね、とっても可愛い」
微笑む実咲の顔を見て、僕も釣られて微笑んだ。
「あなたのそんな笑顔、久し振りに見た。私、この子を産んで本当に良かった」
そう言って涙ぐむ実咲を、愛しさの余り覆い被さるようにして抱き締めた。
妹ばかりか、妻にまでそんな心配を掛けて来た自分を心底情けなく思う。
「ごめん……ありがとう」
そんな言葉しか出なかったけれど、今はそれが僕の精一杯だった。
最初のコメントを投稿しよう!