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それから少女は毎朝この高台に来るようになり、それは僕の楽しみにもなった。
必ず僕より早い時間に来て、備え付けの古ぼけたベンチに座って僕を待っている。
「毎朝よく続くね。君、家はこの近くなの?」
「そうね。でも、今はこの海じゃない別の海に住んでるの」
「へえ……?」
正直、言っている意味は分からなかったが、別に住所を聞き出すつもりではないので曖昧に返事をした。
「お兄さんこそ、今までも毎日ここに来てたの? 朝日が好き? それとも海が好きなの?」
その質問に僕は暫く閉口した。
少女が僕にとっての痛い所を突いて来たからだ。
「海は嫌いだ。特に朝焼けの海は。僕の大切なものを奪って行ったから」
「大切なものって、なに?」
その問いに、僕はすぐには答えられなかった。
スルーしても良いのだろうが、この子には何故だか隠したくない。
「とても大切な……僕の、妹」
それは、僕の中から永遠に消えないであろう深い闇。
妹は、この海で命を落とした。
この先の高い崖から、その下の荒ぶる海に落ち、全身を固い海面に打ち付けられて……
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