朝焼けの約束

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 その日見た朝焼けは、どんな色をしていただろう。  兎にも角にも、今まで見た中でも最高に綺麗な朝焼けだった。 「凄いね、望くん! 美希ちゃんにも見せてあげたかったね」 「一応起こしはしたんだけどなあ」  それにしても、本当に稀に見る美しさだ。  僕はシャッターを切るのに、心底夢中になってしまっていた。 「おにーいちゃんっ!」  突然僕の見つめるファインダー越しに、ひょいと妹の姿が映り込んできた。  その満面の笑顔に「あ、良い表情」と思わずシャッターを切ってしまったが…… 「美希! お前まさか一人で来たのか? 一人は危ないからダメだって言ってるだろ?」   「だからちゃんと起こしてって言ったのにぃ。置いてくなんて酷いよぉ!」 「何言ってんだよ、僕はちゃんと起こしたのに美希がまた寝ちゃったんだろ?」   「あの……本当にごめんね美希ちゃん」    心苦しかったのか、実咲が美希に謝ってくれた。  けれど、実咲に対抗心を燃やす美希は、彼女のそんな態度が許せなかったらしい。    「何よ! 実咲ちゃんだけ連れてくなんてズルい! お兄ちゃんのばかぁ!」  ムスッとして拗ねてしまった美希は、くるりと踵を返して僕とは反対の方へとずんずん歩いて行く。  はっとなって、僕は妹の元へと慌てて駆け出した。  投げ出したカメラが、実咲の足元でガシャリと嫌な音を立てる。 「きゃ! の、望くん!?」   「美希ダメだ! そっちは……っ」  ガラリ、そんな音がした。  風化して脆くなった岩肌と共に、妹の体が沈んでいく。 「お、おにいちゃ……」   「美希っ!!」  精一杯伸ばした僕の手は、無情にも妹へは遠く及ばず……  それは何も掴まぬままに虚しく空を切った。
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