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「すいません」と声を掛けられた村上美咲(むらかみみさき)は、数多の人が行きかう通りで振り向いた。
仕事帰りの彼女の視線の先には、美咲よりやや年上に見える、三十歳ぐらいの男が立っていた。
「はい」
「突然すいません。
村上美咲さんですね?」
「そうですけど……」
美咲は見たことのない男にフルネームを呼ばれ、警戒する。
「平成四年六月十五日生まれ。
出身は埼玉。
間違いないですよね?」
「な、何なんですか、貴方……」
美咲は男を見ながら一歩身を退く。
すると男は軽く息を吐いた。
「いきなりこんなこと言われても、頭がおかしいと思われるだろうけど……」
と、男は前置きをし、美咲を見つめる。
「僕は貴女の生まれ変わり、転生した姿なんです」
「はぁっ?」
美咲は男が言うとおり、男の思考回路を疑った。
「何言ってるんですか。
女に声掛けるなら、もっとマシな嘘吐きなさいよ!」
美咲はそう言って、振り向こうとした。
「貴女は今、逃げようと思った」
「えっ?」
「解るんですよ、僕は元々貴女でしたから」
美咲は気持ち悪くなって、息を呑む。
「そ、そんなの、誰だってこんな状況になったら、逃げ出すわよ。
そ、それに生まれ変わりって、わたしまだ生きてるし……」
「そこが僕も不思議なんですよね。
どうやら魂ってのは時を越えられるようです。
僕も今朝なんですよ。
自分は村上美咲の生まれ変わりって自覚したのは」
男は微笑む。
美咲はその笑顔に不気味さを感じ、走り出した。
すると後ろから男の声が飛んでくる。
「家に帰ったら、ゴミ箱を探してみてごらん。
昨日から見つからない腕時計がそこにあるから」
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