昼海のビー玉

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一瞬でそのビー玉から目を離せなくなった。 おれはその小さな宝石をいろんな角度から眺めてみたり、月にかざしてみたり、手の中で何度も何度も存在を確認してみる。 「気に入ってもらえた?」 というコンの問い掛けにも、小さな子供みたいにこくこくと首を縦に振るしかできないくらいビー玉だったものに夢中だった。 「良かった。なにか、今日のお礼がしたかったんだけど屋台ではちょっと見つけられなくてね。」 「すごく綺麗だ。何したらこうなんだ?コンはやっぱり特殊な能力でも使えるの?」 目を大きく開けたまま、コンに向き直り思ったことをまっすぐ伝えてみる。 するとコンは一拍おいて突然笑い出した。 「あ、ははは!特殊能力か、残念だけど俺は使えないよ。使えたら素敵と思うけどね。」 そんなに笑わなくたっていいじゃないか、とぼやくおれを尻目にコンはひとしきり笑い倒すと、少しだけ苦しそうに、ゆっくりとまた言葉をつなぎ始めた。 「はぁ、こんなに笑ったのは久しぶりだ。今日、無理してでもここに来てよかったよ。」 それからコンはするっとおれの空いた右手をとって軽く握った。 あまりに自然に、流れるように手をとられ抵抗する気も起きなかった。 びっくりしながら握られた右手と、コントラストが綺麗なほど真っ白なコンの手をただ見ているとコンは握手の形に手を握りなおしながら言葉を続けた。 「あおい、改めて今日はありがとう。今日ここであおいに出会えてよかった。欲を言えばもっと一緒にいたかったけどね、いつかまた会えるともっと嬉しい。」 改まってこんなことを言われると流石に気恥ずかしく、おれはまっすぐにこちらを見つめている狐面から思わず顔を逸らしながら返した。 「別に、そんな出会えてよかったなんて言われる程の人間じゃねぇよおれは。それにまた来年にでも会えんだろ。おれは来年もこの祭りくるよ、地元からも近いし。」
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