昼海のビー玉

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ほっとしたような、少し残念なような気持ちでまだ握手の感覚が残る右手に目をやる。 本当に、不思議な奴だったな。 浴衣に狐面、真っ黒い髪に瞳と対照的な白い肌。 靴を履かずに出会って一緒に金魚すくいをし、昼間の海のようなビー玉をもってきた。 そして、出会えてよかったと、おれに言った。 サンダルを買ってあげたからか? 金魚すくいを手伝ったからか? いまいち理由としてしっくりこない気がする。 コンのことは、今日の出来事と『コン』という名前以外全く知らない。 素性も、連絡先も、もっている価値観も、歳も、顔も、好きな色も。 それでも出会えてよかったと言われたことが、むず痒くも嬉しかった。 来年、また会おうという約束はあまりにも輪郭が曖昧で不確かだ。 それでも今はただそんな核だけの約束を忘れずにいたいと思っていた。 来年の今頃はきっと大学受験のための勉強で忙しいだろう。 それでもきっとここに来る。 ここに来られるように、頑張ろう。 おれと出会えてよかったと言ってくれたコンに、胸張って会えるように。 そんで来年会えたらその時こそ、おれもコンに出会えて良かったって伝えるんだ。
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