祭りの後の

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提灯もほとんどが取外され、暗闇を取り戻しつつある祭り場でひとつのテントに向かって歩く、狐面に黒い浴衣を着たひとりの男がいる。 向かうテントは焼きそば屋台だったようで、テント下ではよく焼けた肌の男が逞しい腕で大きな鉄板を片付けているところだった。 周りの人間は皆それぞれの片付けに忙しくしており、狐面男のことなど気にも留めない。 焼きそば屋台のテント前まで来たところで、やっと片付けをしていた男が狐面男に気がついた。 「『紺』!お前やっと戻ってきたな!時間的にも危ねぇし、お前自身そろそろ限界だろうが。無茶すんじゃねぇ、いつぶっ倒れるかもって心配したろうがよ。」 「あはは、ごめん。でも調子は良いんだよ。無茶したとも思ってない。」 焼きそば屋台の男がかけた言葉には、最初こそ説教の色が濃く見えたが心から心配していたことが伺え、それに対して『紺』は狐の面を外しながらひらりと躱すような声で返した。 「ていうかさっきは何だったんだ、いきなりラムネ瓶のビー玉焼いてくれなんて。もう焼くもんなくなってたから良かったものの、、、。」 「そうそう、無理聞いてくれてありがとう。燈也のおかげで大切な友達を笑顔に出来たよ。」 「友達?お前、オレ以外にそんな親しい友達なんて病院の外にいたのか?」 燈也、と呼ばれた男は心底驚いた声で、目を大きくしながら悪気などなく紺に問う。 「今日出来たんだ。」 紺は笑顔になってこう告げ、左手に持っていた金魚の入っているビニール巾着を顔の横まで持ち上げた。 「これも、その子がすくってくれたんだよ。なかなか俺に似てるでしょう。」 得意げになって言う紺に対し、燈也は「似てるって、、、」と少し訝しげにしながらも続きを聞く。 「ほんとは俺が救ってやりたかったけど、出来なかったからあおいが掬ってくれたんだ。」 紺のこの言葉を聞いたところで、燈也はその意味をすぐに理解したようでふっと優しい表情に変わった。 「ほー、、そか。そりゃ良かったじゃねぇの。そいつ、病室で飼えんのか?」 「どうだろう、看護師さんに掛け合ってみるよ。なんとしても飼わせてもらわなきゃね。なんて言おうかなぁ、、。」
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