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「すごいな、あおいは。」
そう言うコンの手には1匹の、小さな金魚が入ったビニール巾着の紐がしっかりと握られている。
結局、コンはじめての金魚すくいはぽいの紙がすぐに破けてしまい、惨敗に終わった。
けれどもう取れないとなった時のコンがあまりにも悲しそうな顔を、、、いや、表情は見えないけれど空気を纏ったので、見かねたおれがぽいの縁を使ってコン気に入りの1匹だけ、すくわせてもらったのだ。
屋台主のおじさんはそれを嫌な顔1つせずに認めてくれた。
コンがあまりにも嬉しそうにしているものだから、思わずおれの顔も緩んでしまう。
「でも本当に良かったのか?もっとでかいやつとか色が鮮やかなのもいたぞ?」
「いいんだ。この子をすくいたいと思ったから。」
「そか。」
「うん。」
自分の手ではすくえなかったけどね、と少し笑ってコンは祭りの外の、最初に話した黒岩があるあたりを指差して言った。
「少し疲れた。さっきの場所に行ってもいい?」
勿論とだけ言い、2人並んでまた暗い外に出た。
コンは黒岩に腰掛けると、向こう側、、、海の方を向いてもう一度金魚を目の高さに持ち上げた。
「この子、弱々しいよね。」
独り言のように呟いた。
「そうだな。頑丈なやつには見えない。」
いい加減、鬱陶しさしか感じられなくなったラムネの残りを黒岩の横に立って、一気に飲み干しながら答える。
「似てると思ったんだ。」
「なにに。」
「俺に。」
からんからん、と昼間の海と同じ色をしたビー玉が瓶の中で踊る。
「、、、コンが、金魚になにを見てるのか知らないけど、」
素直に感じたことだけが口をついて出た。
「ヒトなんてみんな強くない、弱々しいだろ。」
コンが人間でないかもなんてことまで考えてたのに、自分はなにを言ってるんだと思う。
コンの視線を感じながら、おれも真似してラムネの瓶を目の高さまで持ち上げて見た。
瓶と、ビー玉に月の光が入り込んできらきらしてる。
「そっか。」
納得したのか、諦めたのか、コンはそれだけ言って視線を前に戻したらしい。
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