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「夜の海って、」
今度はおれが“独り言”を呟く。
「 不思議だよな。昼間と変わらないはずなのに、別のモノになったみたいで。」
「あおいはどっちが好き?昼間の海と、夜の海。」
おれは昼間の、目一杯太陽の光を飲み込んで眩しいくらいに輝いている海が好きだ。夜の海は、異質的すぎて少し不気味にすら感じる。
そう伝えるとコンは面白そうに小さく笑い声をあげた。
「、、、なんか、可笑しいこと言ったか、、?」
「いや、ごめん。夜の海が怖いなんて可愛いなと、、」「怖いなんて言ってねーよ!」
「そうだね、ごめんごめん。」
まだ、少し笑いを含んだ声で謝るが、たぶんこれは心からの謝罪じゃない。
それでも不思議と苛立ちは感じなかった。
「そういうコンは。昼と夜とじゃどっちの海が好きなんだよ。」
瓶の中のビー玉をからからとまわして弄びながら、コンに尋ねる。
「俺は夜の海の方が、好きかな。」
コンは静かに答えた。
「昼間の海は、眩しすぎる。」
いつの間にか金魚は膝に乗せる位置まで降ろしている。
「夜の海って飲み込まれそうだよね。」
疑問系なのか、自己完結文なのかわからなかったがあぁ、とだけ言って賛同しておいた。
「その飲み込まれそうなところが、俺は好きなんだ。」
その言葉が、やけにひとりぼっちに聞こえたから、思わずコンの横顔を探してみる。
やっぱり狐面で表情は読めない。
「そうだ。あおい、それもう飲み終わったよね?」
静かな波の音を聴きながら空白のような時間を流していると唐突に、コンがこちらを向きラムネの瓶を指差して尋ねた。
「え、あぁもう飲み終わってる。」
「じゃあさ、それちょっと貸してくれないか。」
「いいけど、、。どうすんだこんなもん。これもう中身ないからただのゴミだぞ。」
「いいから。それと少しここで待っててよ、この子の事預かってて。」
コンはそう言って金魚をおれに手渡すと、代わりにおれが持っていたラムネ瓶を持ってまた祭りの方へ歩いていった。
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