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「落とし続けている例の特集のことだ」
デスクの上で肘をつき、普段は見せない歯を見せて笑っている。
わざわざそんなクッションをおいてくるのが、実に太田らしい。
とはいえ”落とし続けている例の特集”に身に覚えがないわけではなかった。
「……その特集に関することですが。先方が多忙でどうしても時間が、」
「そこを調整するのがお前の仕事だろ。夜中でもなんでも時間作って取材しろ。その記事待ってる読者はごまんといるんだよ。……売り上げにも響く」
言いたいだけいうと、シッシッと猫でも払うように手を振られた。
太田がくるりと椅子を回すのを待って、聡乃はクッと鼻筋を歪めた。
太田は簡単に言ってくれるが、相手は飛ぶ鳥を落とす勢いのウェディングドレスデザイナー。
他の社だって彼を狙っている。
まだどこにも先は取られていない。
だからこそ、彼を追う出版社も躍起になっている。
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