第三夜

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『例の取材の件? お前な、なんで実の兄貴相手にそんな他人行儀なんだよ』 元から得意ではなかったその人が、ますます苦手だと感じるのは、実に自分の感情がストレートに反映されているからだと、都琴自身自覚していた。 聡乃という男勝りで仕事のできる直属の上司。 ……と、本人は自分を評価しているかもしれないが、お酒が入ると途端に頼りなくなる。 ふにゃふにゃになって、そこが店のカウンターでも人目につく場所であろうとも、大声で自分を曝け出す。 見ていて実にハラハラする、そんな女性だ。 「もうそろそろ覚悟を決めてもらわないと、多大な迷惑を被っているんですよ」 『覚悟ってなにー。俺は取材が怖くてやらないわけじゃないしー』 そう言ってケラケラ笑う、この人が大嫌いだ。 昔から、要領良く、ニコニコしているだけで特別扱い。 第一子とは思えない要領と愛想の良さ。 その兄の下で育つ自分は、自分をどう見せてもこの人の足元にも及ばないと、いつだって苦汁を飲まされてきた。
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