青い瞳

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「どうして、海は青いのかな……」  つまらないように言うつもりだったのに、ちょっと声が震えてしまった。  目の前に広がる海が、別の色だったらよかった。赤でも黄色でもなんでもいい。とにかく青でさえなければ、こんな嫌な思いをしなくても済むのだ。  他の多くの子たちは黒い瞳をしているけれど、私の瞳の色は、海を連想させる。  ――あいつ、海みたいな目の色のくせに、全然泳げねーのな  ――ほんと、残念なやつ  瞳の色と、泳げるかどうかなんて全然関係ない。でも、悪口とはそういうものだ。なんでもいいから理由を付けて、相手を攻撃する。 「本当に、海は青いと思う?」  隣に立つ男の子が、そう聞いてくる。転校してきたばかりで、きっと彼は私がいじめられていることをよく知らない。だからこうして、彼は今、私と一緒にいるのだろう。女の子が泣きそうだから。ただそれだけの理由で隣に立ってくれている。 「なら、その青い海を持って来て」  彼はバッグの中からペットボトルを取り出すと、中身を全部砂浜に捨てる。ラベルも外して、ただの透明な容器になったそれを、私に渡してきた。 「ここに、青い海を入れて持って来て」  彼は何が言いたいのだろう。よく分からない。けれど、差し出されたペットボトルは受け取ってしまった。仕方なく、私は波が打ち寄せるところまで砂浜を進んだ。そして、靴が少し濡れてしまうのも気にせず、波をペットボトルですくう。 「その色が、青に見える?」  すぐ後ろから、彼の声が聞こえる。  ペットボトルの中にあるのは、ただの無色透明な水だった。  何も答えない私に、彼は言う。 「海は無色透明だよ。青いなんて、大嘘だ。光の散乱で、そう見えてるだけ。海が青いなんて言うやつは、本質を見ずに、上辺だけを見て物を言ってる。そんなやつらの言うことを、気にする必要はないんじゃないかな」  そんなのは屁理屈だ。誰だって海の色を聞かれれば、青だと答える。 「君の瞳の色は青い。海の無色透明なんていうのとは全然違う、とても綺麗な青い色をしてる」  なぜだか、私はボロボロと涙をこぼしていた。背中から聞こえる言葉に、胸の奥がスッとして。  そうか、悪口に理由がないように、きっと人を助ける言葉にも理由なんていらないのだ。  ただ助けたいと思って紡がれた言葉があれば。  それだけで、私の心は救われる。
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