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 ブラインドを上げて窓を開くと、そこには紫陽花が朝露に艶やかだった。  梅雨の湿った空気が、店内にゆるゆると流れ込む。祖父の代から続く、住宅街の中の小さな喫茶店。僕が継ぐと告げた時、病床の父は物言いたげな眼差しをこちらに向けながらも、反対はしなかった。  半地下構造の店舗。使い込まれたサイフォンが並ぶカウンターはそのまま残しながら、テーブル席を思い切って全部撤去した。  壁面に書棚を並べて、がらんとしたスペースにも浮き島の様に陳列棚を配置。  こうして、僕の店がスタートした。
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