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駅前商店街のアーケードを抜けた途端、頬に生温い滴を感じた。
自宅兼職場のマンションまで、ここから徒歩十分。両手には数日分の食料を詰め込んだ大きな買い物袋。いまから商店街まで傘を買いに戻るのも億劫だったし、きっとすぐに止むだろう。
梅雨時期の夕立に対して自分がなぜそんな判断をしたのかはいまでもわからないけれど、その希望的観測を後悔するのには三分も掛からなかった。
にわか雨はすぐに本降りとなってむき出しの二の腕を叩く。あっという間に濡れネズミ状態。家を出る時に選んだのが、濃色のワンピースで良かった。
家路を少しでもショートカットするために、普段は通らない細い路地に入る。
「ここを抜ければちょっとだけ早く着けるはず」とラストスパートを掛ける私の視界の隅に、何かぼんやりと光る物が映った。
足を止めてみる。
左手のマンションのエントランス。
木製の小さな看板がスポットライトに浮かび、その真ん中でデフォルメされた本のロゴマークが、こちらにペコリとお辞儀をしている。
本屋さん? いまはちょっと見たくないかな……
そんな後ろ向きな思考とは裏腹に、ふらふらとその店へ吸い寄せられていく私。濡れたサンダルが、半地下へと続く階段に黒い足跡を残す。
まぁ、少しの間、雨宿りさせてもらうだけなら良いかな。そんなことを思いながら、ガラス扉に手を掛けた。
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