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「小さい頃、これが海だってずっと思ってた……」 「ここは海やあらへん。香りも波の音も、何もかも海とは違うんや……」 祖母は小さく呟いた。 「確かに、湖は塩辛くないね」 「それだけやない。ここは何もかもが、優しい所や……」 じっと外を見て、誰かに言い聞かせるかのように発しているのを僕は見ていた。 その言葉にもなぜかひっかかったが、さっきのようにそれ以上聞くことが出来ない。 黙っていると、ボーン、ボーンと時計が鳴り響く。 古い柱時計は昔と同じ場所で、相変わらずリズミカルに動いている。 いつの間にか、五時になっていた。 「あ、そろそろ帰るから。また明日来るよ」  簡単な挨拶を済ませた後、なぜここを離れるのか、何か不満があるのだろうか、いろんなことを考え、祖母の家を後にした。
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