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そう声をかけたが、祖母の耳には届かなかったようで、無心になって置いてある服を一枚一枚仕分けている。 「これは、いらん、これは置いとく」 ブツブツ言いながらも、迷いのない手際の良さに感心してしまい、その動きに見惚れて話し出す。 「おばあちゃん、すごい。これはどうしよう、なんて悩んだりしない?」 年配の者ほどもったいないと思って物が捨てられない、と聞いたことがあった。 けれど、目の前にいる人物はそんなそぶりは微塵も見せてはいない。 「欲だけでぎょうさん持ってたさかい、もう十分や。新しい所へは、残したいもんだけもっていくつもりや……」 「残したいものって何…?」 「ほんまに好きなもんと、それを見て、『ああ、幸せやったな』と思えるもんだけや。あとはいらん」
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