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無意識に口をへの字に結んでいたらしく、その癖になっているしぐさを祖母に気が付かれてしまった。 僕は昨日からずっと考えていたことを思い切って聞いてみた。 「おばあちゃんがなぜ引っ越しするのか、僕には分からない。こんなに元気だし、新しく住む所は、この近くじゃないよね?」 さらしをその場に置いてから、優しい目を向けられた。 その笑顔は年をとっても変わらない。 「おばあちゃんはな、海があるとこで育ったんや」 「海?」 また思いもしなかった話を祖母は急にし始め、驚きつつも、じっくり聞けるタイミングだと思い、腰を据えた。 「見合いを進めてくれた人がな、海も湖も同じようなもんやて言うてたさかい、何にも考えんと、ここに来たんや。けどあんまりに違って、嫁に来た時は大変やったわ」 「え、そんなに? 僕はあんまり違うようには見えないけど……」
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