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そう答えると、祖母はふふっと顔を崩して笑った。 「昨日も言うたけど、磯の香りはあらへんし、触れた水も柔らかい。波音もそこから伝わってくる空気もみんな優しいんや」 「優しいのは、だめかな?」 「悪いことはあらへん。ただ、生まれ育ったところと比べると、なんやぬるい感じやったわ」 風呂でもないのに、ぬるいと表現する感覚に戸惑いながらも、僕は話を聞き続ける。 「味噌も甘いし、野菜にしても苦みが少ないし、食べ物がシャキっとしてへんのや。人も思っていることを言わんと、遠まわしに伝えてくる。何もかもがふわふわとして、得体が分からんような気味の悪さがあって、よう泣いとったわ」 そう言えば、思い当たることが多い。 祖母は確かにそんな感じだ。 昔から何か思っていてもはっきりとは言わない。
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