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「『郷に入っては郷に従え』昔から言われてたさかい、大分と努力もしてきた。ほんで、ここでずっと生きてくつもりやった……。ほやけど……」
一瞬だけ間が空いた。
「おばあちゃん……?」
「目が見えるようになって、いろんなもん捨てたら、なんや無性に生まれ育った海へ行きたくなってな」
「故郷に?」
祖母は微笑みをこちらに向けた。
「そこへ行く度に、戻りたいっていう気持ちが募ってな、とうとう、わがままを叶えたくなった。自分の人生やさかい、最後くらいはと思ったんや」
はっきりとした祖母の言葉が胸に突き刺さる。
目の前にある姿は自分よりもずっと小さくて、弱々しい。
けれど、そこから発せられる強い気持ちに、羨ましくなった。
見慣れた姿、そして、声。
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