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驚きのせいかやや大きくなった声に反して、相手は納得させるかのようにどっしりと言葉を返す。 「うちも年取ってあちこち悪うなったさかい、少し前からいろいろと考えとったんや」 その声に少しも憂いはなく、祖母の顔はむしろ嬉しそうだった。 僕はそっか、と一言伝えただけで、そのまま無言で運転し続けた。 小一時間ほど走って、家に辿りつくと、目の前ではザザッと小さな波音が繰り返される。 一帯に広がる水面。 小さく深呼吸した後、法要で配られた荷物を持って中へと入る。 幼い頃何度も遊びに来ていたこの家は、昔と比べ大分と変わってしまっていた。 台所に置いてあった食器棚、シンクの脇にあった鍋やフライパンが見当たらない。 居間に飾られていた数々の人形や土産の品もきれいさっぱりと消えている。
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