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 まだ開場までは時間があり、パンフレットを開く。  今日のプログラムはオリオン座で、その案内と、もう一枚チラシが挟まっていた。リニューアルオープンのお知らせだった。 ……リニューアルしちゃうんだ。  確かに建物自体古いし、集客もあまり良くはなさそうだ。周りは割りと新しい建物が多く、余計に古ぼけて見えるのかもしれない。  かなり大がかりなのか、完成予定日はずいぶん先だった。  中に入ると、一番後ろの列の端っこが空いていた。いつも理久が座っていた場所。  見えやすそうな場所が空いていても絶対ここに座っていた。  ここが好きなんだ、と理久は笑っていた。  一緒に甦ってきた色褪せない笑顔に、胸が締め付けられる。  やっぱり、この場所は簡単に思い出させる。良い思い出も、辛い思い出も。 「オリオンはある時、一人の女性と出会います。美しいその女性は――」  ナレーションのお姉さんの声に合わせ、色褪せたフィルムがぱちぱちと切り替わる。  ここには何度も来たけど、この時期に来たことはなかったから、オリオン座のプログラムは見たことのないものだった。  理久は見たことあったかな。  理久の特等席に目を遣った。  見たこともないのに、理久が一人で座っているところが目に浮かんだ。
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