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「あ、ごめんなさい。前にね、那月君と一緒のところを……二人がここから帰ろうとしていたところ、見掛けたことがあったから。いつも二人で来てくれてるんだと思っていたの」 「あ……そうだったんですか。えっと、……たぶん後で来ると思います」 「……そう」  ずっと微笑んでいた理久のお母さんの表情が、ふっと(かげ)った。   理久のお母さんが視線を伏せ、わたしもつられるように足元に視線を落とす。  理久のお母さんに会うのは、病院で会った時とお葬式の時、今日で三度目だった。  わたしは今まで一度も、ちゃんと話したことがなかった。  七年ぶりに会った今でもまだ、彼女の顔をまともに見ることができない。  いくら時間が経ったからって、忘れるなんて出来なかった。  何年経ったとしても、忘れていいはずがなかった。  山中湖から帰ってきたその日の夜、那月からの電話で急いで向かった病院で、理久のお母さんから向けられた目。  涙に濡れた、憎悪と軽蔑が色濃く籠った瞳。 ――あんた達のせいよ……!  悲痛な声は、今も鮮明に残っていた。  わたしが天体観測に連れ出さなければ、理久は倒れたりしなかった。  あんな無理をさせなければ、もしかしたら、理久はもっと長く――。
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