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 唇を噛み締めた。  握り締めた手のひらに、爪が食い込む。  今まで何度繰り返してきたわからない、そのわたしの思考を破ったのは、どさりと何かが落ちた音だった。  理久のお母さんが、崩れ落ちたように地面に座っていた。慌てて駆け寄る。 「あの、大丈夫ですか……?」  理久のお母さんは、両手で顔を覆っていた。指の隙間から嗚咽が漏れ出す。 「……ごめんなさい……。沙弓ちゃん……ごめんなさい……」  謝られたことにも、泣いていることにも、戸惑うことしかできなかった。  理久のお母さんが謝ることなんて何もなくて、謝るべきなのはわたしの方だった。  あの時、わたしは理久の両親にしっかりと謝ることができなかった。 “今回大丈夫だったとしても、もう長くない”  那月に言われたそれをちゃんと飲み込めていなくて、自分のしたことの重さも自覚していなかった。  その状態のまま理久の両親に会い、泣き叫ぶ理久のお母さんにたじろぎ、生まれてはじめて向けられた剥き出しの敵意に、恐れすら感じていた。  わたしは小さな声で謝ることしかできなかった。  理久のお父さんに促され、逃げるように病院をあとにした。
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