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――本当に遅くなってしまったけど、見てあげてくれる?
そう言った理久のお母さんがわたしを車で連れてきたのは、15分ほど走ったところにある住宅街だった。
一軒家の前で車が止まる。
淡いベージュの壁、白色で統一された窓枠、庭にはピンクやオレンジなどの明るい色の花が咲き誇り、この時期にも関わらず色鮮やかで、まるで絵本の中のお家のようだった。
車を降り、理久のお母さんに促されるまま、中にお邪魔した。玄関に上がった時、花のような香りに混じって、ふわりとお線香の匂いが鼻を掠めた。
玄関のすぐ近くにある和室にお仏壇があり、そこには、記憶の中の理久の笑顔があった。
理久は写真を撮らせてくれなかったから、わたしの手元には理久の写真はなかった。
記憶と遜色ない理久の笑顔に、胸が苦しくなる。
お線香をあげさせてもらい、そのあとに案内されたのは、理久の部屋だった。
階段を上がってすぐの六畳ほどの部屋には、大きな窓があり日当たりがよく暖かかった。
常に掃除されているのか、フローリングの床には埃一つ見当たらない。
シンプルな勉強机。紺色のシングルベッド。星の本がたくさん並べられた本棚。
壁には、大きな星空の写真が飾られていた。
わたし達の中で、一番星が好きだった理久らしい部屋だった。
勉強机にそっと触った。
表面に小さなキズが無数にあり、端っこの方には小さな落書きがあった。
七つの星が繋がった北斗七星。
あまりに理久の部屋らしくて、胸が詰まる。
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