[佳乃編]そしてひとり

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ベッドの上で無防備に寝ている男性。 眩しいのか手で目元を隠していて。 悔しいけれど、これを見せられて まだ彼を信じられる強さが私には無い。 なぜなら主任の浮気は 過去にも何度か有ったから。 そのたび私は責めることをせず、 無言のまま数カ月を過ごすか、 親友のマンションに家出し。 冷却期間が過ぎると 何ごとも無かったかのように、 また一緒に暮らし始めるのだ。 それほど主任は魅力的な人で。 自分の年齢から考えても、 彼以上に素敵な男性ともう付き合えない。 そんな負い目から、 彼の勝手をすべて許し続けた。 …でもさすがに今回だけは。 同じ職場のしかも因縁の後輩とだなんて、 許せるはずも無く。 「ふう、30歳は波乱のスタートだな」 幸い土曜で仕事休みだったため、 じっくりと考えた。 自分の人生を。 自分の将来を。 そして何の影響も無かったはずの 『20代から30代への移行』が、 このとき大きく私の心を揺らす。 ウチの祖母も祖父も70代まで生きた。 ということは私もあと40年は生きる。 その長い年月を、 幸せそうな他者を妬み、 自分は孤独だと嘆いて過ごすのだろうか。 じゃあ、どうすれば? じゃあ、どうすればいいんだろう? 答えは分かっているはずなのに、 それを認めるのが怖かった。
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