[佳乃編]そしてひとり

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だからとにかく出ようと思ったのだ。 このままココに居てはいけない、 早く荷物をまとめて出て行こうと。 それだけを決め、 正午過ぎには大きなトランクを片手に 親友のマンションへと向かう。 突然、電話したにも関わらず 玲香はいつものヒマワリみたいな笑顔で 私を出迎え、そして中へと押し込んだ。 「ごめん、佳乃。 時間なくて説明が遅れたけど、 私、彼氏と同棲するのね」 「は…あ…? え、じゃあ私はどうすれば…」 満面の笑みで親友は答える。 「来週、兄貴がNYから戻って来るの。 元々このマンション、兄貴のだし。 だから兄貴と一緒に住めばいいわよ」 「そ、それは無理ッ! だって、分かってるクセに」 「いやあ、運命を感じたわ。 偶然なのかな、コレ。 ほら、前にも話したでしょ? 5歳年下の彼氏がね、転勤になるって。 それについて行くことにしたんだ。 そんなときに3年間の同棲を解消して、 佳乃がウチに来るなんてさあ。 正直言うとね、 兄貴の荷物が先に届くんだけど、 それ受け取りに戻らなきゃダメなのかと 困っていたところなのよ」 「玲香、ほんと勘弁してって。 無理無理、一緒になんて住めないってば」 …『無理』と言いながら、 悲しいことに本音では会ってみたかった。 過去の亡霊に。 玲香のお兄さんは、 私が人生の中で最も愛した 元カレなのだ。
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