鳴り響く汽笛の向こうに

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「キスしていいか?」 返事を待てずに、綾の唇に自分のを重ねていた。 「んふ……」 潤んだ瞳で俺を見つめる綾に我慢ができなくなり、もう1回、さっきより長めのキスをした。 「綾」 「なに?」 「悔しいから、あいつらの期待にこたえてやろうぜ」 「なにそれ」 「俺も出来る限り手伝うから」 「……」 「アメリカに、来て?」 「……うん」 「がんばろうぜ?」 「うん」 「来たら今度は、俺があっちの地名の読み方とか教えてやるから」 「ふふふ」  笑い出した綾の頬にもう一度キスをした。 そしてあいつらの歩いていった方向にむかって、小さくつぶやいた。 「サンキューな……」 「ホントだね」 俺の声が聞こえたのか、綾が俺の手をぎゅっと握り締めてきた。 ポンポンポン…… 肩を寄せ合う俺たちの目の前を、さっき汽笛を鳴らした船の一隻が、夜の黒い水面を滑るように去っていった。  <おしまい>
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