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「綾、君のことがずっと好きだった!」
俺は綾のほうではなく、海のほうを向いたまま、小さく叫んだ。
この汽笛と人の叫び声と花火の爆音のなかでは、俺の声は綾には届いていないだろう。
……それでいいんだ。
……そのほうがいいんだ。
しばらくして汽笛は鳴り止み、花火からなのか、火薬の匂いが鼻をくすぐり始める。
「さー、行こか」
潤が莉子の手を引いて言った。
「何しに?」
「みなとみらいだよ。今日は大観覧車も朝の3時まで動いてるはずだぜ」
「混んでんじゃないのー?」
博史と美羽も二人のあとに続いた。
疼くような切なさの一方で小さな達成感を感じた俺も、黙って奴らの後を追って歩き始める。
だが、一人その場に佇んだまま、動かない姿があった。
綾だ。
「綾?」
美羽が振り返って、俯いたままの綾に声をかけた。
「どうした?」
博史も戻ってきた。
「……遅すぎるよ、秀」
綾の声は掠れていた。
そして綾が顔を上げたとき、その頬には涙がつたっていた。
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