鳴り響く汽笛の向こうに

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「これ、」 博史が持っていた紙袋の中から分厚い本を取り出した。 「知り合いから譲ってもらってきた。TOEFLの練習本。留学には必要だろ?」 「そうそう、私も」  美羽がバッグからコピーの束を取り出す。 「お姉ちゃんに頼んで、留学制度のある大学のリスト作ってもらった」 そういえば、美羽の姉は大学職員だ。 「最近は卒業の条件に留学を義務付けようって大学も出てきたもんなあ」 博史が相槌を打つ。 「俺もさー、今ボストンの大学にいる姉貴に留学のための秘訣みたいの、教えろって言ったら、こーんななげえメール書いてよこしやがって」 潤が何十枚ものプリントした用紙をリュックから出す。 「メールで転送でもいいかと思ったけど、いちおう印刷してやるかって思ったら、えらく時間かかちまってさあ」 「だから遅刻したん?」  莉子が呆れる。 「ったくもう、いつもぎりぎりにやるからだよ」 「そういうお前は何持ってきたのさ。手ぶらか?」 潤が莉子の何も入りそうにない小さなポシェットに目をやりながら、口を尖らした。 「あたしはね、バイト先。留学ってお金かかるでしょ? 綾が得意そうな、子供に教えるとことか、ペイのよさげなとこ、いくつか当たってきたよ」 お前ら……。
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