鳴り響く汽笛の向こうに

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俺は中3の始めまでアメリカにいた。 学者である親父は細菌の研究をしていて、研究のベースはアメリカにある。 だけど3年前、日本の大学に招聘されてこちらで教えることになり、家族ともども一時的に帰国した。 5歳からずっとアメリカ暮らしだった俺。 帰国した当初は大変なんて言葉でいいあらわせるものじゃなかった。 幸い両親が日本人なので、家での会話は日本語だったし、話すほうはなんとかなった。 だが。 漢字が読めない。特に地名や駅名などの固有名詞が。 駅の路線図の前で、小銭を手にして途方にくれてた15歳。 それが俺だった。 日本の歴史や地理の知識もほとんどなかった。 だから社会の授業ときたらまるで何を言っているのか理解できず、日本語というより宇宙語の世界にいるような気がした。 それでも得意な英語と数学を生かして何とか入試は通り、今の高校へ。 だが同じ問題に突き当たる。 初日からいきなり日本の地理のことで先生に指され、焦りまくってた俺にこっそり教科書の一部を鉛筆で丸く囲ってよこしてくれたのが、隣に座っていた綾だった。
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