鳴り響く汽笛の向こうに

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綾のほうはあまり数学が得意でなく、いつのまにか俺たちは、それぞれのノートを見せ合ったり、教えあったりするようになった。 もちろん休み時間とか放課後に、教室でのことだけれど。 かいあって俺たちは落第もせず無事に3年生になり、綾はすでに推薦で第一志望の大学に入学が決まり、俺は……。 俺はアメリカの大学に入る予定だ。 それは日本に来る前から決まっていた。 親父の日本での滞在予定は初めから4年間だったのだ。 大学はアメリカの方がいい、と親父は固く信じている。 俺の方も高校はこちらで過ごしたとはいえ、英語の方がやはり得意だし、やりたい分野で知られている研究者は、ほとんどがアメリカの大学で教えている。 迷う理由はない。 ただひとつのことを除いては。 「もうすぐカウントダウンだぜ」  潤が嬉しそうに言った。 俺はこっそり、隣に立つ綾の横顔を盗み見る。 長い髪に切れ長の目。形のいい唇。 太っても細くもない体つきに緩やかなカーブを描く胸。 日本史やら古典はもちろん、以前日本で流行った歌やドラマなんて話題にはまったくついていけない俺を、いつもさりげなくフォローしてくれた。 「しん……でん?」 「神田(かんだ)だってば!」 俺に地理や歴史のノートを見せながら、俺がヘンな読み方をすると椅子から転がり落ちんばかりに笑っていた綾。 そんな笑い顔でさえも愛しかった。
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