鳴り響く汽笛の向こうに

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彼女がいなければ、俺の高校生活はもっとずっとドライでつまらないものになっていただろう。 放課後、教室に残ってノートを比べっこしていたとき。 音楽室で、合唱コンクールの練習のための椅子をそろえていたとき。 化学の先生に大量のコピーを頼まれた綾を手伝ってやったとき。 学園祭でクラスの出し物に使うポスターの色塗りをしていたとき。 ……この3年間。 何度も、二人きりになったときがあった。 何度も、視線が絡み合った。 何度も、この溢れそうな気持ちを伝えようとした。 ……でも、できなかった。 来年の春になれば、俺はアメリカに戻る。 日本に長期間戻ってくることは、おそらくもう、ない。 いつか確実に訪れる終わりのときを気にしながら、付き合っていける自信がなかった。 彼女を泣かさない自信がなかった。 いや、それよりも、俺自身が。 彼女をもっと深く知ってしまえば、自分が別れをどう受け止められるのか。 耐えられるのか。 自信がなかったんだ。
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