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それから私たちは何度も夏を一緒に過ごした。あの子は、くだらないことも面白いことも少し悲しいことも嬉しいことも、全部私に話してくれた。私はいつも生き生きと語るあの子を見ているのが好きだった。
でも、ある日あの子はこう言った。
「どうして、キミはキミの話をしてくれないの?」
私の答えは簡単だった。
「だって、私はあなたの人魚だから」
本当のことを話したら、私たちを繋いでいたあの日の人魚は消えてしまう。私は普通の女の子に戻ってしまう。
でも。
私は人魚じゃないから、海の中へ潜ったりはしなかった。
私は人魚じゃないから、寒い日は陸に上がっていた。
私は人魚じゃないから、夏が過ぎると必ず海の無い故郷へ帰っていった。
あの子だって、もう本当のことは分かっているはずだった。
「ねえ、僕とデートしてくれないかな」
それは私たちの関係を海から切り離す一言だった。
私は誘いを受け入れて、あの子とデートをした。中学二年生の時だった。
海の見えない地上でも、私たちはたくさん話をして、たくさん一緒に笑った。
「楽しかったよ、ありがとう」
私はお礼を言いながら、その日新しく見つけた夢のことを考えていた。そんな私の心を読んだみたいに、彼はぽつりと零した。
「キミと同じ世界で、生きてみたいな」
私は困ってしまった。それこそ、私が叶えたい夢だったから。
だから私は、あの子に言った。
「もう少しだけ、待っててね」
必ず叶えてみせるから。
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